イギリス子育てレポート

イギリスで子育て奮闘中。調べたこと、やってみたこと、感じたことをレポートします。

イギリスの低い母乳育児率と産後のサポート不足

先日イギリスの母乳育児する母親の割合の少なさについてテレビで取り上げられ、いくつかニュースの記事にもなっているので、今日はそれを紹介したいと思います。

www.channel4.com

イギリス国内からなら後28日間オンラインで視聴できます。多分国外からはアクセス不可。こちらの記事から内容は読めます。

www.independent.co.uk

 

先進国の中でも最低レベルなイギリス

番組や記事の元となっているユニセフUKの調査(2010年)によると、81%の保護者が母乳でスタートするにも関わらず、イングランドでの生後6週間の完全母乳育児の割合は24%、生後3か月には17%まで下がり、生後6か月にはわずか1%しかいないとのこと。ミルクと母乳の混合の場合は生後6週間で55%、6か月で34%。つまり6割以上の人が生後半年の間に完全ミルク育児に移行しているということです。これは世界の先進国の中でも最低レベルとのこと。

 

私個人の経験

出産直後に一緒に苦労して母乳をあげていた周りのお母さんたちが、半年も経つ頃にはいつの間にかみんなさくっと直接母乳を卒業して哺乳瓶であげるようになっていたから(もしかしたら中身は搾乳した母乳だったかもしれないけど)、1%という数字も驚きではありません。

うちの娘は生後3、4か月頃に哺乳瓶を拒否するようになってから1歳で自然に卒乳するまで完全母乳育児だったのですが、義母に「6ヶ月経ったら母乳あげるメリットなんて何もないのよ!」なんて言われて腹が立ったのを覚えています。

 

日本の場合は?

日本ではどうなんだろうと思ってサッと調べてみたところ、生後1か月と3カ月のデータしかなかったけれど下の記事を見つけました。生後3か月には完全母乳がなんと54.7%、混合も合わせるとほぼ9割の人が母乳をあげている。6週間で半分近くまで下がるイギリスより遥かに大勢の母親が母乳育児に取り組んでいます。

www.jiji.com

これってすごいことじゃありませんか!?母乳あげるのって赤ちゃんも母親も自然に本能でできるようになるのかと思いきや、全くそんなことはなくめちゃくちゃ大変でしたよ。それを9割の人が続けるなんて、私はこれはすごいことだと思います。

日本の場合は、母乳で育児しなきゃいけないプレッシャーを感じるのかもしれませんが。これについては別の紹介したい話があるのでまたいつか。

 

低い母乳育児率の原因は

テレビ番組では3つの原因をあげていました。一つは母乳のメリットのついての保護者の知識不足、もう一つは母乳育児への公的資金の削減からのサポート不足、そして最後は公共の場所での授乳に対するネガティブな反応、ということでした。

公共の場所での授乳については前に書いたのと、母乳のメリットについては私がぐちゃぐちゃ意見する立場にないので書きませんが、資金カットによるサポート不足についてはまさに私自身も被害にあったと感じています。

 

yumih.hatenablog.com 

足りない退院後のサポート実体験

娘を生む前に日本で既に子供がいる友達には、出産翌日には退院させられることをよく心配されました。「大丈夫、退院した後1週間位は助産師さんが自宅に来てくれるらしいから!」と無邪気に答えていたのですが、実際に来てもらえたのは退院翌日だけでした。

新生児を抱くのもはじめてだった私に、娘がちゃんとおっぱい飲めてるかなんて分かるわけもなく、ほとんど飲めていなかった娘は生後3日目で黄疸になりかかり、産んだ病院の救急に戻る羽目になった話は既に書いた通りです。

yumih.hatenablog.com

日本みたいに数日間入院できればと思う反面、病院にいる間も授乳のやり方含めて赤ちゃんのお世話について助産師さんからの指導はほとんどありませんでした。院内のスタッフは忙しそうで、何度もアピールして捕まえてこないと放置されていたような感じ。

当時は必死すぎて何がどうあるべきか考える余裕がまるでなかったけれど、産後数日間のサポートは退院前も後も明らかに足りなかったと改めて感じます。

 

実際に足りていない産後のサポート

そんな私個人の経験から受けた印象もどうやら間違いではない様子。当時はロンドンは人口が多いから人手が足りないせいで他の地域は違うかも、と考えていたけれどそんなこともなさそう。

ここ数年の間にイングランドの44%の地方自治体が母乳育児のサポートへの予算を削減または完全に取りやめにしたそうです。

冒頭のテレビ番組の中にも、一番近くの授乳相談できる場所は車で2時間かかる、とコメントしていた女性がいて衝撃でした。生後数日の赤ちゃんをつれて2時間移動なんて絶対に無理です。

www.theguardian.com

 

さらに下の記事よると、病院にいる間も助産師さんが授乳指導に割く時間はなく、退院後48時間以内に訪問サポートを受けられなかった女性は大勢いる、なんて眩暈がしそうなことが書いてありました。

www.theguardian.com

政治的優先度の低い子育て世代

政府が2016年に発表した子育て支援の5ヵ年計画には、母乳育児の重要性は触れられているものの具体的な支援策は何も書かれていないようです。結果、地方自治体の裁量に任されている現状です。2010年から続く中央政府からの予算削減に、今日もNorthamptonが財政破綻を発表したばかり。今後、授乳サポートが増えるような気がしません。

書いている間に絶望的になりすぎてどうまとめていいのか分からなくなってきました。イギリスで出産しようとする日本人女性を怖がらせるような記事になってしまったような気もして、それも不本意です。残念ながらNHSの現状はこんな状態ですが、NCTをはじめ様々な授乳サポートが各地にあるはずなので、しっかり情報収集して頑張って欲しいところです。次はもうちょっとポジティブに役に立ちそうな記事も書きたい。

 

夜中に睡魔と戦いながら授乳をしている間によく考えていたことがあります。娘の長い人生を考えると、こうしておっぱいをあげられる時間はほんの短い間だけ。こう考えると娘に授乳できる時間がとても大切なものに思えて、苦労してでも頑張ろうと思えました。

 

乳児を抱えて苦労する時間は人生の中でもほんの短い間。制度が変わる頃には、今まさに問題を抱えている家族にとってはその新しい制度は必要がないものになっているのかもしれません。

なかなか解決しなさそうな日本の待機児童問題や、どんどん予算が削られるイギリスの授乳サポート。子育て世代の声はどの国にいても社会に反映されにくいのかな、と思います。

せめて、これから生まれる次女が乳児じゃなくなってからも、子育てが一番大変な時期が終わっても、子育て真っただ中の世代を支えようという気持ちを忘れずに持ち続けたいものです。